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2021-04-26

危険なチキンゲーム−台湾を巡る米中軍事対立−【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】20210419

危険なチキンゲーム台湾を巡る米中軍事対立【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】20210419

チキンゲームとは、2人のプレイヤーが「強気」(Bull)と「弱気」(Chicken)のいずれかを選び、相手が弱気であれば自分が強気である方が得るものが多く、両方とも強気であれば、2人にとって最悪の結果を招くというものである。最近の台湾を巡る米中対立は、まさにチキンゲームを思わせるものであり、両国とも引く気配はない。特に、軍事面のチキンゲームは、最悪戦争につながる危険極まりないものである。2021年4月早々に、台湾周辺において、両国海軍艦艇等の動きが活発化している。それぞれの動きを概観した上で、今後台湾を巡る米中関係がどの様に推移するかについて見積る。

20214月4日に防衛省は、「4月3日(土)に海上自衛隊が、男女群島(長崎県)の南西470kmの海域において、同海域を南東進する中国海軍空母『遼寧』、レンハイ級ミサイル駆逐艦1隻、ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦2隻、ジャ ンカイII級フリゲート1隻及びフユ級高速戦闘支援艦1隻の6隻を確認、その後、これらの艦艇が沖縄本島と宮古島の間の海域を南下し、太平洋へ向けて航行した」と公表した。「遼寧」が沖縄と宮古島間を南下し、西太平洋に進出したのは、昨年4月10日以来である。この時は、バシー海峡を経由し、南シナ海において航空機の発着艦訓練を実施した後に、4月28日に再び沖縄と宮古島間を通過し東シナ海を北上している。

報道によれば、「遼寧」戦闘グループは、4月5日に台湾南東部において訓練を実施しており、中国国防部は、年度計画に従った通常の訓練と述べている。同日、台湾西部において戦闘機等約10機が台湾の防空識別圏に侵入した。47日にも戦闘機等15機が同様に台湾防空識別圏に侵入している。台湾の東西において同時に訓練を実施したことは、台湾を完全に包囲し、多方面から攻撃することが可能であることを内外に示す目的があったと考えられる。さらには、4月7日に中国共産党機関紙「人民日報」の海外版SNS上に、台湾の東岸にあたる福建省南部で人民解放軍が上陸訓練を行う映像が公表された。中国は、香港における「一国二制度」の形骸化に対する国際的批判が高まっているにもかかわらず、台湾への軍事的圧力を強化し、台湾問題に関し、いかなる妥協も外国勢力の干渉も許さないという強い姿勢を明白にしている。

中国軍用機の度重なる防空識別圏への侵入に対し、台湾空軍は、その都度戦闘機を緊急発進させていたが、329日に台湾国防部は、台湾空軍の訓練に支障が生じつつあるとして、空軍機による緊急発進を縮小すると公表している。地上レーダー及び防空ミサイルを使用した警戒は継続するとしているが、台湾空軍対処能力の限界を露呈した形であり、中国の圧力が効果を表したということができるであろう。

米国も中国の軍事的圧力強化への対抗策を講じている。202144日に、ルーズベルト空母戦闘群がマラッカ海峡を経由し南シナ海に展開、4月7日にはマレーシア空軍と共同訓練を実施した。更には、マキン米海軍両用戦群と合流し、南シナ海において共同訓練を実施している。遼寧戦闘グループに対しては、駆逐艦マスチンが継続的に追尾を実施しており、4月7日には、駆逐艦ジョン・S・マケインが台湾海峡を通過、中国を牽制した。

46日又は7日以降には、南シナ海に米中の空母戦闘群が同時に存在していることになる。それぞれの艦載機の戦闘行動半径を考慮すると、まさに、それぞれが「強気」を見せ合うチキンゲームが始まったとの印象を受ける。両空母が干戈を交えるようなことは無いと思われるが、もし何らかの衝突が生起すれば、日米の空母が激突した1944年6月のマリアナ沖海戦以来となる。

米中両海軍は、20144月の西太平洋海軍シンポジウムにおいて合意された海上衝突回避規範(CUES : Code for Unplanned Encounters at Sea)に調印しており、偶発的に遭遇した場合の航行要領に合意している。しかしながら、201810に米太平洋艦隊報道官は、航行の自由作戦に従事中の米駆逐艦に中国駆逐艦が近接し、米駆逐艦が回避措置をとった時の距離は45ヤード(約25m)であったことを明らかにしている。相互不信が強い米中両国の艦艇や航空機が近接した場合、不測事態が生起する可能性が高まる。

台湾を巡る米中の軍事紛争状態は、中国が台湾に武力を行使し、これを米国が軍事的に阻止するというのが基本的構図となる。この構図に従えば、米中の軍事紛争は中国の出方にかかっていると言える。台湾への軍事的圧力を高めつつある中国ではあるが、果たして最終的に、台湾への武力侵攻までを想定した圧力なのであろうか。

フォーリン・アフェア誌3月/4月号に、元オーストラリア首相のケビン・ラッド氏が「Short of War」という論文を寄稿している。同氏は、外交官時代には在中国豪州大使館に勤務した経験があり、中国名を持つほどの中国通である。同氏は寄稿文の中で、これから10年間が極めて危険な時期とした上で、「米中がいかなる戦略を選択しようが、米中の衝突は避けられないが、戦争は避け得る」としている。その理由として、中国は米国からの経済制裁に対抗するためには、内需を拡大させる必要があり、そのためには、共産党の統制を強めつつも、いかに企業のイノベーションへのダイナミズムを維持するかを最優先として考えている。台湾への軍事侵攻は、山岳が多いという台湾の地形、2,500万人の訓練された人々の存在を考えた場合、短期で終結することは困難であり中国の国際的イメージを傷つけ、米国の介入を招くという観点から、中国成長へのメカニズムに逆らう形となる事から、選択できないと分析している。そして、両国は「管理された戦略的競争(Managed Strategic Competition」を選択すべきであると提言している。

台湾を巡り米中が軍事的対立から実際の戦闘にエスカレートすることは、日本の安全保障上重大な懸念事項と言える。米中紛争は、戦略的要衝である尖閣諸島及び沖縄を巻き込むことは必至であり、日本防衛上の事態となることは確実である。米中対立が解消する見込みがない上に、冷戦のように、中国を封じ込めることが困難である。従って、「管理された戦略的競争」は唯一の選択肢となるであろう。米中指導者もおそらく同じように考えているのではないだろうか。現在の米中の政治的及び軍事的対立は、双方が折り合える場所を手探りで探っている状態と言えるであろう。

ラッド氏は寄稿文の中で、「管理された戦略的競争」関係を構築するためには、米国は「一つの中国」の方針を堅持し、不要かつ挑発的な台湾との政府高官交流を取りやめ、中国も、台湾周辺における挑発歴な軍事行動や、南シナ海における島嶼の軍事化を行わず、航行や飛行の自由を保障する事、東シナ海では、日中両国が艦艇の展開を取り止め、緊張緩和を図る協定を締結する事等を提言している。しかしながら、これらの事は、米中間の相互不信から極めて道が遠い。もちろんそれに向けて協議を重ねることが「管理された戦略的競争」の一形態ということができるであろう。

軍事的観点から見た場合、現在中国が米国と戦っても勝てないと考えている状態をいかに持続させるかということが重要である。2021323日に米上院公聴会に出席した次期米太平洋軍司令官アキリーノ海軍大将は、「最大の懸念は台湾に対する中国の軍事動向である」と述べている。そして、中国に対抗するためには「地域に展開する米軍だけではなく、価値観を共有する同盟国や友好国などと連携し、即応できる態勢を構築し、抑止力を維持していく」と地域の同盟国との連携の強化を訴えている。台湾有事における日米連携は優先的に検討しなければならない問題であり、2015年に制定された平和安全保障法制の枠組では収まりきれない可能性がある。尖閣は日米安保の対象というだけでは、抑止力にはなり得ない。尖閣防衛は台湾有事と連携する問題である。より具体的な日米連携要領について検討を始めるべきであり、必要があれば憲法改正も視野に入れていく必要があるであろう。

チキンゲームにおいて、相手の「強気」に対し、自らが「弱気」になれば失うところが大きくなる。かといって、相手の「強気」に対し、自らの「強気」を推し進めれば、破滅に向かう道である。現在台湾を巡り繰り広げられている米中対立を危険なチキンゲームではなく、「管理された戦略的競争」状態に落とし込む冷静さと最悪を想定した周到な準備が強く望まれる

 

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄 防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。


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